経済産業省は6月13日、次世代の電力システム構築に向けた制度設計の具体的な議論を開始した。3月に取りまとめた電力システム改革の検証結果や今後の方向性を踏まえ、次世代電力・ガス基盤構築小委員会下に「制度設計WG(ワーキンググループ)」を設置。安定供給・脱炭素化・安定的な価格での供給実現を目指し具体的な議論を進め、2025年秋を目途に取りまとめる。
エネルギーの安定供給や脱炭素化、価格の安定が一層重要に
3月に経済産業省が取りまとめた「電力システム改革の検証結果と今後の方向性」では、制度改革により送配電網の広域運用が進展し、需要家の選択肢も広がるなど一定の成果が認められた一方、火力発電の休廃止や燃料価格高騰による電気料金の上昇、安定供給力の確保など、依然として多くの課題が浮き彫りとなった。また、DXやGXの進展、地政学リスクの高まり、インフレの影響を受け、エネルギーの安定供給や脱炭素化、価格の安定が一層重要になっている。
3つの取引市場を整備し、電力システムを進化へ
同取りまとめでは、従来、垂直一貫体制、地域独占、総括原価方式によって実現しようとしてきた「安定的な電力供給」を、事業者や需要家の「選択」や「競争」を通じた創意工夫によって実現することを目指したが、その中で、供給力の確保など様々な課題に直面している、と指摘。
このため、「供給力を確保するための取引市場・制度」「量・価格両面で安定的な調達を可能とする中長期取引市場」「効率的な広域メリットオーダー実現のための短期取引市場」の3つの取引市場等の整備が急務とし、安定供給の確保・脱炭素化・安定的な価格水準での電気の供給を実現すべく電力システムを進化させていくことが電力システム改革の次のフェーズであるとまとめた。
小委員会、GX加速や電力需要の増加を見据え制度見直しを指摘
これを受け、5月23日に第1回次世代電力・ガス基盤構築小委員会を開催。燃料の安定確保、系統整備、需給運用の効率化、小売事業の健全化など、現行制度の課題を整理した。
GXの加速や電力需要の増加を見据え、制度的な見直しの必要性を指摘した上で、同委員会下に制度設計WGを設置。電力システム改革の検証を通じて明らかになった課題について、具体的な検討を開始した。
WG、秋をめどに報告
制度設計WGでは、(1)燃料確保(2)地内系統整備(3)大規模系統整備の資金調達(4)短期需給市場の整備(5)小売事業者の責任と規律(6)中長期取引市場の活性化(7)経過措置料金の在り方(8)投資ファイナンスの円滑化、の8項目について具体的な制度設計を議論する。
いずれも安定供給・脱炭素化・安定的な価格水準という電力システムの将来像を実現するための柱であり、来年秋の取りまとめに向けて議論を本格化させる。
WGで検討する8項目
WGで詳細に検討する8つ項目についての概要は以下の通り。
(1)燃料確保の課題と対応
電力自由化や再エネ導入拡大の影響で、発電事業者が長期契約で燃料を安定確保することが難しくなり、需給ひっ迫や国際情勢による燃料価格高騰のリスクが高まっている。これを受け、平時・緊急時双方に対応できるよう、LNG長期契約の確保を促す措置を含め、電力需要の見通しに基づき必要な政策対応を検討する。
(2)地内系統の計画的な整備
再エネ導入拡大や大規模需要への対応には、地内系統の計画的整備が不可欠だが、脱炭素電源の立地見込みやGX政策との整合も求められる。これに対し、公的機関の関与のもと、一般送配電事業者が計画的に整備を進める枠組みを検討し、長工期・巨額投資に備えた資金調達・費用回収の円滑化も併せて進める。
(3)大規模系統整備に係る資金調達
再エネ導入拡大や電力の安定供給を実現するには、北海道・本州間の海底直流送電など、地域間連系線や地内系統の着実な整備が不可欠だが、これらは長期の工期と巨額の投資を要し、資金調達や費用回収の不透明さが整備の障害となっている。対応として、公的な信用補完や政府の信用力を活用した融資の仕組みを検討するほか、工事着工段階から託送料金で一部費用を回収できる仕組み、建設仮勘定の見直し、大規模整備費用増額時の回収確実性確保のためのガイドライン整備を進める方針。
(4)短期需給運用市場の整備
現行の電力市場では、電力(kWh)と調整力(ΔkW)が別々に取引されており、異なる方式や価格規律が存在することで、電源の過剰起動や効率的な運転が妨げられ、価格高騰を招くケースも発生している。今後、再エネの導入拡大に伴い、調整力や出力制御、系統混雑がさらに増加し、需給運用の難易度が高まる見通しだ。このため、需給調整市場の前日取引への全面移行や運用改善を進めるとともに、電力と調整力を同時に最適配分する「同時市場」の構築を目指す。
(5)小売電気事業者の責任・役割と規律
小売全面自由化により事業者数が大きく増え、料金メニューの多様化やデマンドレスポンス(DR)の活用が進み、需要家の選択肢は広がった。一方で、厳しい事業環境の中、小売電気事業者の撤退や電気料金の高騰が生じ、安定供給や需要家保護の観点から課題が浮き彫りとなっている。このため、安定的な事業環境の実現に向け、小売事業者の責任や役割を明確化するとともに、必要な規律やその遵守を促す仕組みについて検討を進める。
(6)中長期取引を促進する市場
小売全面自由化後、スポット市場は一定の流動性を確保し、供給力調達の手段として活用されているが、燃料費の変動や供給状況の影響を受けやすく、価格の大幅変動が国民経済に悪影響を及ぼすリスクが高まっている。安定した電力供給と価格水準を実現するためには、短期市場依存から脱却し、電源調達手段の多様化が不可欠だ。今後、中長期取引市場の整備やブローカー取引の活性化を図り、電力価格の客観的な指標形成と安定した市場環境の確立を目指す。
(7)経過措置料金の解除など
電力小売全面自由化に伴い導入された経過措置料金は、競争環境が整うまでの間、需要家保護を目的として設定されている。2019年に解除基準が策定され、毎年競争状況の確認が行われているが、現時点で解除が妥当とされた地域はない。将来的な解除に向けては、経過措置料金が果たしてきた役割の是非や、制度的対応の必要性を改めて整理する必要がある。今後も競争状況の確認を継続し、解除時の課題や低圧需要家の保護策を含めた慎重な制度検討を進める。
(8)電源・系統への投資に対するファイナンス
電力需要増加や脱炭素化の実現には、再エネや原子力、系統への大規模・長期的な投資が不可欠だが、費用回収に時間がかかり、電気料金への影響を抑えながら投資を進めるのは困難となっている。このため、市場や制度の整備に加え、公的な信用補完や政府の信用力を活用した融資など、投資を円滑に進めるためのファイナンス対策を講じる方針。
電力ネットワークの次世代化についても議論
さらに、電力ネットワークの次世代化について、地内系統整備を促す仕組みや大規模系統整備に必要な資金調達の円滑化に関する具体策について議論を深めた。
2025年2月に閣議決定された「エネルギー基本計画」では、地内系統の計画的整備を促す枠組みや、北海道・本州間の海底直流送電や関門連系線など、大規模な地域間連系線整備に向けた資金調達の円滑化策の検討が示された。今後、データセンターの国内立地拡大などにより電力需要が増加する見通しであり、電力の安定供給や再エネの大量導入には系統整備が不可欠である。そのため、制度的措置を含め、計画的かつ効率的な系統整備の推進が重要となる。
【参考】