公開日時:2026/07/13
アンカーの取り組みは、平時の製品安全にとどまらない。むしろ同社の真骨頂は、災害という非常時にこそ表れる。
5月、アンカー・ジャパンは通信事業者4社と他のモバイルバッテリーメーカー7社とともに、大規模災害発生時の被災地への電源確保に関する連携協定を締結した。普段はライバル同士の通信事業者が「競争ではなく協調」で取り組む「つなぐ×かえるプロジェクト」に、アンカーを含むバッテリーメーカー8社が加わる枠組みで6月1日から運用が始まった。
災害が起きると、通信事業者は現地の連絡役「リエゾン」として自治体に入り、どの避難所にどれだけの需要があるかを把握する。一方、バッテリーメーカーは被災地に届ける電源機材を調達し、通信事業者が準備した前進拠点まで配送する。
通信事業者は復旧・避難所支援のために現地へ赴くため、その拠点からバッテリーや機材を避難所へ届けていく。これまで各メーカーが個別に被災地へと連絡し、配送先が見つからない、被災地側も受け入れ方がわからないといった混乱が生じていた。その課題を、拠点の一元管理と事前のルート確保で解消しようという発想である。
アンカーは2016年の熊本地震でポータブル電源100台、2024年の能登半島沖地震ではポータブル電源等を合計1,800個超を提供するなど…全国12の地方自治体と防災協定を結び、ポータブル電源を配備してきた。
実は他のバッテリーメーカーにも同様な取り組みをし、同様な悩みを持っていたところが多く、今回、通信事業者4社からの声がけでメーカーの壁を越えて協力しあい、被災地物流のラストワンマイルを、通信事業者のネットワークで埋めようとしている。
その備蓄と供給の体制について、猿渡氏に聞くと「うちの倉庫は、おそらく日本で一番(モバイルバッテリーの)在庫を持っている会社。いまは大阪にも倉庫を増やすなど分散もしている」。協定先には一定数を持ってもらったうえで、有事には優先的に追加供給する「ハイブリッド型」を採るという。
「全部渡してしまうと向こう(被災地や中継地)も在庫管理が大変。ただ、有事に物流が遮断されると送れなくなるので、両方を組み合わせる。これはお金儲けというより、半分はメーカーという立場での社会貢献的な意味合いでやっている」と言う。
充電器から始まったアンカーは、いまやオーディオ、スマートホーム、ポータブル電源まで手がける総合デジタル製品メーカーへと姿を変えた。発表会では、そのブランド戦略そのものを大きく転換することも明かされた。
1つは、ブランドの統合だ。これまで「Soundcore(オーディオ&ビジュアル)」「Eufy(スマートホーム)」などブランドごとに分けてきた製品群を、すべて「Anker」に集約する「One Anker」戦略である。年内をめどに統合を進める。
なぜいま統合なのか。「私が入社したころは社員が数人しかいなかった。オーディオや家電を始めるにあたって、当時はブランドごとにしっかり作ったほうがいいという仮説があった。昔は2000〜3000円の商品が多かったので、コスパのよいブランドという入り口から分けていった」と猿渡氏は振り返る。
だが状況は変わった。「いまは低価格帯から高額帯まで、多くのカテゴリで弊社がシェアトップを取っている。アフターサポートをアンカーが一体でやるという保証の意味でも、One Ankerでいく」。
統合の裏には、認知度のばらつきという実務的な課題もある。「Eufy(ユーフィ)は、ロボット掃除機でシェア1位を取れているのに、ブランドとしての認知度が低い。おそらく日本人にはブランド名の読みづらさの問題もある。だが、アンカーの掃除機としては認知されているようなので、それならばアンカーに寄せたほうが伝わる」そんな判断だと言う。
これに合わせてコーポレートロゴも刷新した。Ankerブランドのアイデンティティを担ってきたロゴを、進化と力強さを表現した新デザインへと一新する。
合わせて日本法人として新たなコーポレートミッションも掲げた。「Innovation Faster.(イノベーション・ファスター)」。真に求められる革新的な製品を、どこよりも速く、圧倒的な完成度で届けていこうという宣言である。
ちなみにアンカーのバッテリー関連の事業では、モバイルバッテリーだけでなく、より大型なポータブル電源と住宅用蓄電池の領域もこれからの成長エンジンとして注目に値しそうだ。
「2030年から戸建てには(太陽光発電を)つけなければならなくなるし、補助金も出ています。エネルギー価格が上がるなか、モバイル充電での認知があるので、今度は『家全体もやりましょう』という形で去年の売上は前年比で数倍以上伸びています」と猿渡氏。
既に中国では桁違いの大きな市場が立ち上がっているというが、日本でも無印良品の「無印良品の家」への採用例や、個人経営の病院、二世帯住宅などへの導入が広がっている。
今後、例えば大規模なマンションなどにも採用されれば数千万〜数億円の専用システムの導入が見込める。戸建てに関しては現在、工務店と一緒に進めている段階で、まだ本格的な営業活動はしていないが、引き合いがあれば対応したいと語る。
ポータブル電源も人気で「3年前のモデルはレンタル待ちが出るほど人気があった」と言う。今回の、そうしたニーズに応えるべく最新製品「Anker Solix S2000」(2000Wh)を発表、大きな注目を集めているという。
バッテリーに次いで強いのが主力製品Soundcore Libertyシリーズを中心にしたワイヤレスイヤホン製品だが、新発表のSoundcore Liberty 5 Proシリーズでは、なんと新たに専用のAIチップを独自開発、演算処理性能を従来比約150倍に高め、通話ノイズリダクション性能でギネス世界記録に認定されるなど、バッテリー以外の技術開発力も備え始めている。
昨今、円安やAI企業による半導体やメモリーの買い占めによる価格高騰の影響について聞くと、「バッテリーに関しては、ほぼ今回の影響を受けずにカバーできる。現状はそれほど値上げしなくてもいける」と語り、主力事業の底堅さをのぞかせた。
ブランド刷新に努めるアンカー社、新たにプロスポーツの世界にも足を踏み入れ始めている。
きっかけは、オーディオ事業の戦い方にあった。「オーディオ事業はソニー、アップルという大きな企業に匹敵するまで成長してきた。だったら、そのシェアを奪い合うよりも、ゲームを変えようと考えた」。猿渡氏が選んだのが、相性のよいダンスとの組み合わせだった。スポンサードを起点に、チームに名前をつけられることからチームの運営そのものにも乗り出した。
ゼロから立ち上げるのではなく、既存のチームを継承する形での参入だという。現在はチームのディレクター(監督的な役割)が固まり、来季に向けてダンサーの編成を進めている段階だ。
「ディレクターと食事をしたりしながらやっている。自分たちでチームを持つのは初めてなので、『サカつく』(スポーツチーム経営のシミュレーションゲーム)のような感覚で、楽しくやっている」と猿渡氏は笑う。
狙いは、ブランドの認知拡大だけではない。「ダンスはいま小学生も必死にやっている。陰でしっかり裾野ができているので、認知獲得の意味でもいいと思っている」。学校教育でダンスが必修化され、競技人口が広がるなかで、ダンスという文化そのものへの投資でもある。黒字化も視野に入れているという。
なお、アンカーの話ではないので蛇足として書くが、リチウムイオンバッテリーの発火問題では、メーカーが悪者にされがちだが、アンカー同様に良質なバッテリーを開発・提供するメーカーも多い。
むしろ、経産省が規制をしているにもかかわらず、素性のよくわからない安全品質の低い海外製バッテリーがECサイトを通して国内で買えてしまうことの方がより大きな問題かもしれない。
2019年2月から経産省が「電気用品の範囲等の解釈について(通達)」を改正し「PSEマーク」のついていないモバイルバッテリーの製造・輸入・販売(流通在庫・フリマ等の個人売買含む)は禁止になっている。
しかし、EC直販ルートが規制外だったため問題を防ぎきれていなかった。2025年12月25日施行の改正4法が出るまでは穴が空いたままだった(この間、ECサイト側もモバイルバッテリーが社会問題になっていると知りつつ、抜け穴の多い書類審査など自社負担の最小化を優先した対応だけで、積極的には状況の改善に努めなかった背景がある)。