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12時間で認知症のリスクが63%UP 健康寿命を縮める「座りっぱなしの害」を帳消しにする習慣〈最新データを紹介〉

公開日時:2026/07/13

谷本 哲也:内科医

運動習慣があってもダメ?「座りっぱなしの害」を帳消しにする習慣とは――(写真:mits/PIXTA)

健康の話になると、多くの方は「もっと運動しなければ」と考えます。もちろん、それは間違いではありません。ですが、近年の医学研究が強く示しているのはむしろ、“長時間座っていること”が独立した健康リスクになる点です。

体の中で何が起きているのか

■座りっぱなしが害になるメカニズム

まず座りっぱなしが健康問題を起こす、医学的メカニズムから整理しておきましょう。

長時間座りっぱなしでいると、下肢にある太ももやふくらはぎなど、体の中で最も大きな筋肉群の活動が低下します。筋肉は単に動くための器官ではなく、血糖を細胞内に取り込み、脂質をエネルギーに変える重要な組織です。

この筋肉がほとんど動かない状態が続くと、食後血糖値の上昇やインスリン抵抗性の悪化(血糖値を下げるホルモンであるインスリンの効きが悪くなる)、中性脂肪の増加、血管機能の低下などが起こりやすくなります。

さらに、下肢の筋肉が動かないと血液を心臓へ戻すポンプ作用が弱まり、血流が滞りがちになります。長時間座りっぱなしの状態に、PC作業などによる前屈みの姿勢が重なると、血流不足が首・肩・腰にある筋肉のこわばりをもたらします。

肩こりや腰痛は単なるデスクワークの副産物ではなく、長時間同じ姿勢を固定し続ける生活への警告サインとも言えるのです。

こうした座りっぱなしのリスクについては、近年、加速度計を用いた疫学研究によって、解明が大きく進みました。

以前は「1日どのくらい座っていますか」という、自己申告によるアンケートが中心でしたが、人は自分の座っている時間を正確に覚えていません。そこで近年は、腰や手首に装着した小型の加速度計センサーで、立っているか・歩いているか・座っているかを客観的、かつ継続的に記録する大規模研究が主流になってきているのです。

例えば、アメリカの高齢女性を対象とした大規模研究では、加速度計を弾性ベルトで被験者の腰に固定し、7日間連続(入浴時などは外す)でその様子を記録しました。

データは60秒ごとの単位で集計され、1分当たりの加速度カウントを基に、どの時間帯に座っていたか、どの程度の強度で動いていたかを解析します。

イギリスの大規模疫学データベース「UKバイオバンク」を使った研究では、手首に装着した加速度計を7日間、24時間モニターしました。10万人超が参加した膨大なデータから、睡眠・座位・軽い活動・中高強度の運動といった行動を分類しています。

このような加速度計によるデータを分析し、「長く座ることが健康に悪い」という結論が両方の研究を基に発表されています。

「運動しているから」は通用せず

■座りっぱなしと死亡率の関係

前述のアメリカのグループによる2024年発表の研究では、平均年齢79歳の女性約5800人について、死亡との関連を調べています。すると、1日11.6時間以上座っている女性は、9.3時間未満の女性と比べて全死亡リスクが57%高く、心血管死亡リスクが78%高いことが示されました。

重要なのは、この関連が運動習慣を考慮したうえでも相殺されなかった点です。

つまり、定期的な運動をしているからといって、長時間座りっぱなしのリスクを完全に打ち消せるわけではない可能性があるのです。

同じ研究を基にした2024年の別の論文では、63〜99歳の女性5951人を対象に、座っている時間と心不全の関連を調べています。その結果、座っている時間が長いほど、心不全リスクが高まることがわかりました。

 

■座りっぱなしと認知症の関係

脳や健康寿命への影響も見逃せません。

先に挙げたイギリスのUKバイオバンクのデータを使い、2023年に発表された研究では、60歳以上の約5万人を平均6.7年間、追跡しました。その結果、座りっぱなしの時間が1日10時間を超えたあたりから、認知症リスクが急上昇し始めることがわかりました。

具体的には、基準の1日9.3時間と比べて、10時間で8%、12時間では63%とリスクが増えていき、15時間では3倍超の増加が示されています。因果関係の断定はできないものの、座りがちな生活と脳の健康は無関係ではないようです。

 

■座りっぱなしと健康寿命の関係

健康寿命では、約4万5000人の女性を20年間追跡したデータを用いた興味深い調査もあります。これは2024年にアメリカから発表されました。

この調査では、座りっぱなしでテレビを観ている時間が1日2時間増えるごとに、健康寿命が12%低下し、逆にこの1時間を中等度以上の身体活動(運動など)に置き換えると、健康寿命が28%高まると推定されました。

ここでいう健康寿命とは、“重い慢性疾患や認知・身体・精神機能の低下を避けながら、70歳以上を迎えること”で、20年間も追跡調査された意義は大きいと言えます。

激しい運動でなくても、日々の座る時間を減らして、ちょっとした運動に変えるだけで、老後の質が変わりうるという視点は重要です。