脱炭素や再生可能エネルギーなどに関する「環境ビジネス」は全人類の運命を左右するテーマだけに、世界では様々なイノベーションが考案され、実行されている。このリレー連載では「脱炭素」「持続可能な社会」「気候変動」「再生可能エネルギー」から、「食品ロス」「ごみ削減」に至るまで、世界各地の様々なエコな取り組みを紹介する。今回は日本の企業が開発した「垂直軸式マグナス風力発電」だ。
垂直軸式マグナス風力発電とは
自然環境保全が重要視される昨今、原子力や火力に頼らない再生可能エネルギー(再エネ)が注目を集めている。その一環として日本の企業である株式会社チャレナジー(東京都墨田区)が開発した垂直軸式マグナス風力発電(マグナス発電)の実証試験が2018年から沖縄県の石垣島、2021年からはフィリピン・パタネス州のバタン島、2024年からは福島県の南相馬市で行われている。
風力発電と聞いて真っ先に思い浮ぶのは、大きなプロペラが扇風機のように回転する水平軸式プロペラ風力発電機(プロペラ機)だろう。
2本の円筒に生じる圧力差を利用
だがマグナス機に羽はなく、地面と垂直に設置した回転軸のまわりにつけた2本の円筒がそれぞれ逆方向に自転する際の圧力差で生じるマグナス効果(風向に対して垂直に働く揚力)で風車全体を公転させて発電する技術だ。
マグナス発電を野球に例えると、ボールに回転を与えると上側の空気の流れが速くなる一方、下側が遅くなる。その速度差=圧力差で生じる揚力でボールが曲がって変化球になるのと同じ仕組みである。
プロペラ機とマグナス機の違い
プロペラ(P)機とマグナス(M)機の違いを簡単にみてみよう。
1.風向:
P機-回転軸が地面と平行であるため多方向からの風を受けられない
M機-回転軸が地面と垂直であるため風向に左右されない
2.耐風速:
P機-風速25m/秒
M機-風速70m/秒
高速回転のプロペラ機は強風で破損のリスクがあるが、低速回転のマグナス機は回転速度を調整することで強風にも耐えられる
3.騒音:
P機-30〜50dB
M機-52dB
4.バードストライク(衝突事故):
P機-高リスク
M機-低リスク
鷲などの鳥にとって上下の動きは死角となり認識ができない。そのためプロペラ機に忌避音で鳥を遠ざけるシステムやカメラの設置が検討されている
5.発電コスト:
P機-約20円/1kWh
M機-数百円/1kWh
マグナス機は現在稼働中の10kW機から大型化することでコスト削減を計画している
コスト面の克服課題
IEA(国際エネルギー機関)の予測によると、2040年には風力発電が再エネの40%の発電設備容量を担うといわれており、IRENA(国際再生可能エネルギー機関)が公表している世界全体の風力発電の累積導入容量は1030GWに達している。
だが、2024年12月末時点での日本国内の再エネ発電量割合は太陽光11.4%に対して風力約1.1%と低く、累計導入量をみても太陽光75.6GW、風力5.8GWと普及が遅れている。マグナス発電もまだ導入件数は少ないが、コスト面の課題を克服できれば、新たな風力発電システムにおける選択肢の一つとして注目を集めそうだ。