公開日時:2026/08/17
2024-25シーズンの最終節、立石氏とDMMの執行役員である緒方氏は、現地スタジアムで一緒に観戦し、1部の残留が決まった瞬間に胸をなでおろした。
「1部残留が決まった時の安堵と喜びは、今シーズンのヨーロッパリーグの予選プレーオフの出場権を得た時以上に大きかったです」(立石氏)
同時期には、現地メディアからの風当たりも強まった。前編で触れたとおり、日本人選手偏重への懐疑はDMM買収の初期からくすぶっていたが、2024年にも再び表面化した。
2024年9月、STVVとKVコルトレイクの試合では、両チームの日本人選手9名がピッチに立った。これを受けてベルギーメディア『HUMO』は「日本人選手が多くいると、我々のサッカーではなくなる。面白くない」「ベルギーにこれほど多くの日本人がいても、誰も得をしない」と批判的な論調で報じた。
「登竜門」という戦略は日本側から見れば成功だが、ベルギー側でさまざまな見方が存在する。立石氏もそれを認めたうえで、STVVは日本人選手の獲得と並行して、地元出身の選手の育成にも力を注いできたと語る。
「外国籍選手ばかり獲得してきたため、地元サポーターの心をつかみきれていないと感じていました。ハスペンゴウ(STVVが本拠を置くシント=トロイデン周辺の地域)の選手をしっかりと育て、地元選手が常に4~5人ピッチに立っている状態を目指したことで、地元のサポーターとの一体感も生まれています」(立石氏)
3期連続で黒字化を達成して債務超過も解消し、日本代表にも多くの選手を輩出したSTVV。その成果に注目した日本企業が、STVVの経営にも参画している。2025年7月、ジャパネットホールディングスはSTVVの株式19.9%を取得し、第2位株主となった。その経緯を緒方氏はこう語る。
「当初、ジャパネットの高田旭人さんから『STVVに興味がある』と連絡をいただき、STVVの8年間の取り組みを非常に高く評価してくださいました。同社はJ1に昇格したV・ファーレン長崎のオーナーでもあり、複数のクラブを経営するマルチオーナーシップにも高い関心をお持ちでした。そこで、資本提携をする形で着地しました」(緒方氏)
この提携によって、BSでのSTVVの全試合の放映や、長崎スタジアムシティを活用したスポンサー向けイベントの開催といった新たな試みも生まれている。
「日本中の方々に、STVVのプロジェクトに参加していただきたい、オールジャパンで進めていきたいというのが当初からの思いです。ジャパネットだけでなく、マルハン東日本カンパニー、セプテーニ・ホールディングスとも資本提携をしています」(立石氏)
DMMグループがSTVVを買収してからの8年について、緒方氏にあらためて聞いた。
「経営の数字とスポーツとしての結果、両方を追い続けなければならないことが、スポーツビジネスの難しさです。この8年でそれを痛感しました。難しいからこそ経営者が熱狂するというスポーツビジネスの特性がわかった気がしました。予想外だったのは、STVVというクラブを通じて生まれたビジネスや出会いが大きな資産になっていることです。もともとエンタメ事業が中心だったDMMが、ヨーロッパのサッカークラブを経営していることが、ブランドイメージの向上や、採用面にも一定の効果がありました」(緒方氏)
「日本選手の世界への登竜門」という立ち位置は、この8年で確立したといえる。立石氏が次に見据えるのは、選手だけでなく「日本人指導者の世界進出」だ。
「ひとつの選択肢として、STVVの監督を日本人に任せることも考えています。選手だけでなく、指導者もフロントも、日本から世界に飛び出せる時代にしていきたいです」(立石氏)