社会福祉法人 大北社会福祉事業協会 特別養護老人ホーム 高瀬荘さま

改善事例

社会福祉法人 大北社会福祉事業協会
特別養護老人ホーム 高瀬荘さま (長野県北安曇郡池田町)

取材日 2013年8月

快適性を確保しながら、高い省エネ性、低ランニングコストを実現した北アルプスの麓にある特別養護老人ホーム

快適性を確保しながら、
高い省エネ性、
低ランニング
コストを実現した
北アルプスの麓にある
特別養護老人ホーム

旧施設からの新築建て替えを機に、すべて電化した施設に生まれ変わる

雄大な北アルプス連峰を間近に望む自然豊かなロケーションに、特別養護老人ホーム「高瀬荘」さまはあります。旧施設からの新築建て替えにより、すべての設備を電化した現在の施設になりました。
高瀬荘さまを運営するのは、周辺市町村(池田町・松川村・大町市・白馬村・小谷村)が中心になって設立された、社会福祉法人 大北社会福祉事業協会さま。この地域に暮らす誰もが個人の尊厳を保持しつつ、自立した生活を営むことができるよう、早くから老人ホームや救護施設の運営を行い、地域福祉の充実・発展に貢献してきました。現在は、松川村の村長である平林さまが協会理事長を務めています。
「これから益々高齢化が進みますから、この施設が地域のみなさんから求められる期待は、もっと大きくなると思います。そういう中で、職員たちも地域の人たちのためにもっと頑張ろう、という意気込みが感じられるような施設になるといいですね」と平林さまは語ります。

  • 大北社会福祉事業協会 理事長(松川村村長) 平林明人さま

    大北社会福祉事業協会 理事長(松川村村長) 平林明人さま

  • 施設内は明るく開放的なつくり。自由にくつろげる中庭は4つもある。

    施設内は明るく開放的なつくり。自由にくつろげる中庭は4つもある。

設計テーマは、"できる限り省エネでランニングコスト抑制を継続できる施設"

高瀬荘さまの建て替えにあたり、設計を実施した株式会社宮本忠長建築設計事務所が提案したのは、「できる限り小エネルギーで、かつ低いランニングコストで末永く運営できること」。
担当された設計監理主管の松橋さまはこう語ります。「デザインだけでなく、これからの時代はエネルギーを省く省エネから、効率的でいかに小さなエネルギーで施設を運営していけるか、ということに最初から着目していました。近年、自動車はデザインや加速などが求められていた時代から、ハイブリッド化など燃費や快適さなどの性能が重要視されていますよね。これからの時代に求められるのは、いかに小さなエネルギーで維持費を縮小しながらも快適さを実現するかということで、それは施設も同じだと思います」。
しかし、提案当初から「全て電化ありき」ではなかったとのこと。施設の業務特性上、オムツの洗濯量が多いため、乾燥機の使用頻度が高く、その点はガス式の方が強みがあるとの考えから、当初はガスと電気の長所を活かしたハイブリッドのエネルギー利用も考えていたそうですが、高瀬荘さまと協議し、布オムツの割合を減らすことで電気式乾燥機で対応できるよう、運用面での工夫を提案されたそうです。

  • 株式会社宮本忠長建築設計事務所設計監理主管 松橋寿明さま

    株式会社宮本忠長建築設計事務所設計監理主管 松橋寿明さま

計画的なエネルギー利用の観点から、業務用エコキュートを採用

松橋さまは設計と並行して、光熱費の試算に加え、一次エネルギー換算も行ない、さまざまなエネルギー源で見た場合、電気に一本化することが最も効率的だという結果に行きついたそうです。
「適性に効率良くエネルギーを使っていくことを考えると、最も制御しやすいのは電気であると。電気は昼間消費するエネルギーを割安な夜間に蓄えたり、お湯を作っておいたり、計画的なエネルギー利用という観点ではメリットが大きいと判断しました」(松橋さま)。
このような考えの元、湯切れ対策など安定した給湯能力のある密閉式の大容量の貯湯タンクを備えた業務用エコキュートを採用されたそうです。

  • 業務用エコキュートのヒートポンプユニットは8基設置

    業務用エコキュートのヒートポンプユニットは8基設置

  • 貯湯タンクを2台設置

    貯湯タンクを2台設置

デマンドコントローラーで床暖房を制御しコスト低減。
年間寒暖差50℃でも快適性は損なわず

高齢の入居者が多いため、施設の温度管理は健康面で重要です。この地域は、夏は気温35℃にまで上昇することがある反面、冬は氷点下まで下がることもあり、年間の気温差は50℃にもなる厳しい環境。そのため、年間を通じて最適な空調コントロールが必要であり、特に冬場の快適性をかなえるために導入されたのが、蓄熱式床暖房です。廊下やエントランス、共用スペースなど大部分に敷設され、割安な深夜電力を利用して蓄熱し、日中に放熱して施設内を優しく温めています。
高瀬荘さまでは、朝食の準備に厨房が使われる時間帯に最大電力が発生することが想定されたため、デマンドコントローラー(※)を設置し、床暖房と連携したシステムを構築しています。これは、デマンドが設定値に達すると、影響が少ないエリアの床暖房の蓄熱ユニットの電源を自動的に停止することでピークカットする仕組み。冬期運用した結果でも日中の室温は20℃~25℃をキープしており、運用に問題ないことが実証されており、快適性を損なわずにランニングコストの低減を実現しています。
(※)デマンドコントローラーとは、契約電力の超過を防いだり、デマンド値(最大需要電力)の引き下げを目的に使用する装置。

  • 県産材ヒノキが内装に使用された広い廊下。この下にも床暖房があり、冬は優しい温かさを醸す

    県産材ヒノキが内装に使用された広い廊下。この下にも床暖房があり、冬は優しい温かさを醸す

  • デマンドのピークは、朝食準備の調理時間帯に出現24時間の電力使用推移グラフ(設計事務所資料より)

    デマンドのピークは、朝食準備の調理時間帯に出現
    24時間の電力使用推移グラフ(設計事務所資料より)

省エネ性を高めるために様々な工夫。福祉施設に電化システムは有効

空調設備や給湯機器だけでなく、高瀬荘さまには省エネ性能を高める工夫が数多くされています。照明費抑制効果もあるトップライトは、採光パネル自体が薄い被膜の太陽光パネルとなっており、日射熱を95%カットしたやわらかな自然光を採り入れながら、同時に発電もしています。また、外壁には外断熱工法を採用。樹脂サッシ、Low-eペアガラスで高い断熱性能を持ち、ランニングコスト削減に効果を発揮しています。
設計の松橋さまはこう語ります。「施設が稼働してから測定したデータでは、室内の温度は夏も冬もほぼ一定の室温を保っており、年間を通して非常に変動が少ないんですね。これは空調の効果に加え、建物の断熱性能がしっかりできている証拠だと思います。24時間人が居る施設については、上手にエネルギーを制御でき、計画的に利用できる電化システムは非常に有効だと感じています。今後も特に福祉施設にはお勧めできますね」。

  • 日射熱をカットし、採光するトップライト。夏でも熱さはほとんど感じない

    日射熱をカットし、採光するトップライト。夏でも熱さはほとんど感じない

  • トップライトはガラスと一体型の太陽光発電パネルを採用。室内からはガラスにしか見えないデザイン

    トップライトはガラスと一体型の太陽光発電パネルを採用。室内からはガラスにしか見えないデザイン

  • 福祉施設の電化は、設計士の視点から見ても効果が高いという

    福祉施設の電化は、設計士の視点から見ても効果が高いという

快適な電化厨房に調理スタッフも満足

入居者にとって、おいしい食事は毎日の楽しみのひとつ。効率的で使いやすい電化厨房機器を備えた調理室では、おいしさと食べやすさ、栄養面も工夫した献立を80人分作っています。手作り感を大切にしているため、IH調理器は重宝しているそうです。その他の電化厨房機器も、コンパクトに効率よく配置されています。衛生面では、ドライフロアと適切な換気・空調により管理がしやすいとのこと。旧施設から勤務している調理スタッフの方は「以前と比べて暑くなく快適です。調理に専念できますね」と笑顔で語ります。
中部電力ミライズでは、導入決定後に調理スタッフの方々に対し、電化厨房を体験していただく機会を設けさせていただきました。

  • IH調理器は使い勝手が良く、利用頻度も高い

    IH調理器は使い勝手が良く、利用頻度も高い

延べ床面積は1.4倍になったにもかかわらず、ランニングコストは約15%削減!

旧施設に比べ、延べ床面積は約1.4倍に増床した高瀬荘さまですが、新しい施設になって1年を経た光熱費のランニングコストは、以前より約15%も削減できたとのことです。
施設長の桑澤さまは「入居者の方たちからは、きれいで、広くて、すごしやすいね、という声をよく聞きます。やはりお年寄りには、寒暖の差が少ないという快適な住環境は大きなポイントです。健康管理に直結するので、そこは守りながら、よりコストを抑えていけるような取り組みを今後も考えていきたいですね」と語ります。
また、設備担当スタッフにとっては、ボイラーが無くなったことにより、早めの出勤やメンテナンス、燃料管理などの作業負担が不要になったメリットは大きいとのことです。

  • 旧施設、新施設のランニングコストの比較

    旧施設、新施設のランニングコストの比較

  • 高瀬荘所長 桑澤恵さま

    高瀬荘所長 桑澤恵さま

取材こぼれ話

この地域は男性の平均寿命ランキングが日本でも上位

  • 全国市町村別男性平均寿命の最新ランキング(厚生労働省発表)

    全国市町村別男性平均寿命の最新ランキング(厚生労働省発表)

  • 2013年に厚生労働省から発表された全国市町村別平均寿命ランキングによると、高瀬荘さまがある池田町は、男性の部で全国7位にランクイン。
    理事長の平林さまが村長を務める松川村は、なんと全国1位!となっています。トップテンにこの地域の2町村が入るという快挙は、古くから福祉に力を注いでいることと、決して無関係ではないのでしょう。

  • 入居者は必ずスタッフステーションの前を通って行き来する生活動線でいつも見守られている

    入居者は必ずスタッフステーションの前を通って行き来する生活動線でいつも見守られている

  • 運営母体である大北社会福祉事業会さまは、長期的な視点で地域の福祉支援を目的にしており、ランニングコストの管理・削減は安定した施設運営に欠かせないものです。

    中部電力ミライズでは、いっそうのエネルギー費削減をお手伝いするため、ニーズに合わせたご提案を継続的に行なっていきたいと考えています。

  • 導入システム

    導入システム

    空調設備機器
    マルチエアコン 70台
    給湯設備機器
    ヒートポンプ給湯機 3台
    電化厨房設備機器
    電気フライヤ 1台/テーブルレンジ 1台/ローレンジ 1台/スチームコンベクションオーブン 1台/立体炊飯器 1台/食器消毒保管庫 1台/電子レンジ 1台/ラックコンベア洗浄機 1台
    電気式床暖房設備機器
    蓄熱式床暖房 1台/非蓄熱式床暖房 2台